信濃の民謡:木曽節(全詞)


〆木曽の御岳夏でも寒い      袷しょやりたや足袋よそえて   〆心細いよ木曽路の旅は      笠に木の葉が舞かかるよ
〆木曽の名木ヒノキにサワラ    ネズやにスヒに コウヤマキ   〆踊りませうず踊りませうず    月の山端にかぎるまで
〆君が田と股吾が田とならぶ    同じ田の水 蛙ならび      〆木曽の名所は寝覚め      山で高いのは御嶽山(みたけやま)
〆三里笹山二里まつばやし     嫁ごよく来た五里の道      〆木曽の深(ミ)山に伐る木はあれど 思い切る木(気)は、更に無い
〆月は傾く夜は深々と       館やかたで鳥が啼く       〆木曽の桟太田の渡し       鳥井峠が無けりゃ良い
〆男伊達ならこの木曽川の     流れくる水止めて見ろ      〆主に分かれて松原行けば     松の露やら涙やら
〆私しゃ奥山一重のさくら     八重に咲く気は更にない     〆主のこころとおんたけ山の    峰の氷はいつ溶ける

〆こぼれ松葉を手でかき寄せて   主のおいでを焚いて待つ     〆女乍もまさかの時にゃ      主にかわりて玉だすき
〆木曽の山寺今鳴る鐘は      昔乍の初夜の鐘         〆盆が来たぞえお寺の庭の     石の燈籠に火が灯る
〆木曽で生まれた中乗りさんが   可愛がられて都まで       〆主を慕うて此の木曽川に     浮き名流した事もある
〆臼の軽さよ相手のよさよ     相手変わるないつまでも     〆泣くな嘆くな日影の紅葉     いくら泣いても陽(ヒ)はささぬ
〆好いた主さと夏吹く風を     ちょいと入れたや我が部屋に   〆木曽へ木曽へと風ふくしまの   夏はよいとこ住みよかろ
〆人に情けと冬田の水は      末を思わばかけて置け      〆声はすれども姿は見えぬ     あれは草場のキリギリス
〆来いと云われて行くその夜さの  足の軽さよそのうれしさよ    〆行けば初夜なる帰れば森の    明けの烏が啼いて立つ

〆隅田川さえ竿さしゃとどく    何故にとどかぬ吾が思い     〆盆にゃおいでよ祭にゃ来でも   死んだ佛も盆にゃ来る
〆恋にこがれて啼く蝉よりも    なかぬ蛍が身をこがす      〆お前百まで私しゃ九十九まで   共に白髪の生えるまで
〆言うてしまおか言わずおこと   思案なかばの乱れ髪       〆逢ふて嬉しや別れのつらさ    逢うて別れが無けりゃよい
〆浮名立てられ今やめらりょか   せめて浮名のやむまでは     〆わしが唄出し向ひで付ける    昔馴染みか友だちか
〆松の葉の様な縁ならほしや    枯れて落ちても二人づれ     〆私ばかりを思わせおいて     主は柳に春の風
〆立てば芍薬坐れば牡丹      歩く姿は百合の花        〆目出度若松ゆかたに染めて    着せて参らしゃ伊勢様へ
〆池のアヤメに筆巻き添えて    一寸ひとふでカキツバタ     〆碓氷峠のあの風ぐるま      誰を待つやらくるくると

〆唄は理につむ鳥りゃ木に止まる  人は情けの下に住む       〆同じ町内軒並びでも       逢わにゃ千里も同じこと
〆咲いたさくらになぜ駒つなぐ   駒が勇めば花が散る       〆梅とさくうらを両手に持ちて   どちらが梅やらさくらやら
〆紺ののれんに玉屋とかいて    たまに来るなら来んがよい    〆橋のらんかん腰うちかけて    月の出を待つ主を待つ
〆泣いて涙を出さないものは    千両役者とかごの鳥       〆竹の切節たまりし水は      すまずにごらず出ず入らず
〆差した刀のさげ緒にすがり    頼みますぞえ行く末も      〆虎は千里の藪さえ越すに     障子一重がままならぬ
〆さくら三月アヤメは五月     きくは九月の末に咲く      〆踊り踊るならきりりとしゃんと  しなの良い娘を嫁にとる
〆振らば振らんせ私しゃぬれにきた どうせ私しゃぬれごころ     〆辛棒しやんせ辛棒が大事     廻るくるまは心棒から

〆娘島田に蝶々がとまる      とまる筈だよ花だもの      〆花の盛りに芯とめられて     しおれ花とは私(わし)がこと
〆木曽へ木曽へと皆行きたがる   木曽に踊りが有ればこそ     〆三尾の日影も西野の奥も     住めば都会(みやこ)で花が咲く
〆せめて蝶々の片羽根なりと    有れば主さに舞いかかる     〆人を頼めば時節を待てと     時節待つなら頼みやせぬ
〆思ん込んだに添わせておくれ   神も佛も親さまも        〆わしの願いは五つの願い     二つまくらに三つぶとん
〆富士の裾野に曽我兄弟は     一夜かり寝の草まくら      〆何時がいつまでこのなげ島田   早く丸曲ぬしのそば
〆旦那お早ふと両手をついて    羽織たしむは何時のこと     〆主を待つ夜のローソク油     細くながかれとぼとぼと
〆月の出たのを夜明けと思い    主を帰して今くやし       〆神に願がけ叶わぬ時は      二十二夜様お立ちまち

〆とんで行き度やとんではゆけず  苦労する身のほととぎすし    〆姿見せずに啼くひと聲は     恋の暗路のほととぎす
〆思い切れとを晒(さらし)を五尺  思い切らりょうがごうざらしし  〆主は今頃起きてか寝てか     思い出してか忘れてか
〆腹が立つなら此の子をごらん   仲のよい時出来た子じゃし    〆お月様さえ夜遊びなさるし    まして若い衆あたり前
〆ちょいとお寄りよ夜はまだ夜中  月は廊下の上に在る       〆佐倉宗五郎子別れよりも     主と別れが私しゃつらい
〆惚れて通えば千里も一里     逢わず帰ればまた千里      〆佐渡と越後の境のさくら     花は越後に葉は佐渡に
〆明けの鴉と鶏りや憎い      可愛い主さの目をさます     〆汽車の笛さへフーフとなるに   私とぬしさわいつ夫婦
〆娘したがる親させたがる     さして見たがる針仕事      〆嫌と云うのに主はくどい     一度いやなら何時もいや

〆色気付いたか龍田の紅葉     日々毎日水かがみ        〆花は千作成る實は一つ      早く無駄花散らせたや
〆梅もさくらも私はいやよ     何時も変わらぬ松みどり     〆心せけ共今この身では      時節待つより外はない
〆切れてそなたの身が立つなれば  こがれ死ぬ共切れてやる     〆朝日にほいし木曽路の花も    風にあわずに散る惜しさ
〆あの子よい子だぼた餅顔ぞ    きな粉つけたら尚よかろ     〆苦労擦る墨私は細筆に      いのちあなたにかけすぐり
〆汽車は出て行く煙は残る     残るけむりはしゃくの種     〆ふみの上書きや切れたと書いて  中にや暫く待てとある
〆木曽の奈良井やぶ原宿か    婿も取らずに孫を抱く      〆咲いてさくらと云われるよりも  散って松葉と云われたい

〆色でしくじる紺屋のむすこ    浅黄染めおばこんに染め     〆抱いて寝もせずいとまも呉れづ  つなぎ舟とは私のこと
〆私と主さは二葉の松葉      枯れて落ちても二人連れ     〆枕取っちゃ投げ取っちゃ投げ枕  投げた枕にやとがはない
〆来ては抱き付くあの大木に    鳴いて別れる夏の蝉       〆私しや加古川本蔵の娘      力弥様とはいいなづけ
〆云うておこうか云わずにおこか  思案なかばのみだれ髪      〆お酒呑む人しんから可愛い    酔ふてくだ巻きや尚可愛い
〆お前嫌でも又好く人が      あるで私しの身がもてる     〆私しゃ備前の岡山育ち      米のなるう木はまだ知らぬ
〆浮気物だと笑はば笑らえ     人のせん事したぢやなし     〆ちょいと向ふの白地の浴衣    あれは東京のお関取り
〆東京西京は針金便り       私とあなたは文だより      〆よせばよいのに舌切り雀     ちょいとなめたが身のつまり

〆月はちょいと出て横に雲抱きやる おらも抱きたやお十七を     〆三味を横抱き浅間を眺め     つとめつらいと目になみだ
〆惚れちや又やめ又惚れちややめ  それぢや出雲の帳よごし     〆お医者様でも草津の湯でも    惚れた病はなほりやせぬ
〆門(かど)に立花こうしにぼたん  中の様子を菊の花        〆抱いて寝てさえ話が残る     まして格子の中や外
〆千里とぶ様な虎の子を欲しや   千里とばして便りよきく     〆人に言われて身を引く様な    浅い惚れ様はしちやおらぬ
〆義理に迫れば道芝さえも     露に一夜の宿を貸す       〆親の意見と茄子の花は      千に一のむだわない
〆主と旅すりや月日も忘れ     うぐいすが啼く春の様だ     〆何をくよくよ川端やなぎ     水の流れを見て暮らす
〆〆て鳴るのはつづみに太鼓    何ぼしめても私しやならぬ    〆踊らまいかよ今年の盆にや    に子に舞し楽らくと

〆さくら三月あやめ五月      菊は九月の末に咲く       〆花が蝶々か蝶々が花か      来てはちらちら迷わする
〆これがこうよと理(わけ)さへ分りゃ横に車は押しはせぬ       〆荒きあら波女のみさを      立てて天女と云わせたや
〆娘島田と新木の舟は       人が見たがるのりたがる     〆時節待てまて今ここ五年     せめてこの子の五つまで
〆あいた目で見て気をもむよりも  一層めくがらましかいな     〆雨はざんざと降りてもやむが   立てし浮き名はいつやむか

・参考:木曽節に関する資料を「木曽福島役場から送って頂いて、参考にさせて頂いた。ご厚意に感謝します。
・制作:99/02/13・更新:99/03/07

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