信州のうた:千曲川


五木ひろしの「千曲川」。 千曲川は、甲武信三国の国境にある甲武信岳に端を発し、信州の東部をゆったりと流れ、途中川中島のある長野市で犀川と合流し、越後(新潟県)で信濃川と名前を変えて日本海に注ぎ出る。全長367km日本一の大河である。
歌詞
♪水の流れに 花びらを
♪そっと浮かべて 泣いた人
♪忘れな草に かえらぬ初恋を
♪想い出させる 信濃の旅路を
♪明日はいずこか 浮き雲に
♪煙たなびく 浅間山
♪呼べどはるかに 都は遠く
♪秋の風立つ すすきの径よ
♪ひとりたどれば 草笛の
♪音いろ哀しき 千曲川
♪寄せるさざ波 くれゆく岸に
♪里の灯ともる 信濃の旅路よ
歌詞は、川周辺の景観や詩情を巧みに織り込んで、信濃路の旅情をそそる。作詞:山口洋子・作曲:猪俣公章・編曲:森岡賢一郎。歌碑が戸倉上山田温泉萬葉公園千曲川をのぞんで建っている。

作詞家であり、文筆家でもある山口洋子 は、五木ひろしのプロデューサーでもあった。その山口洋子が、五木ひろしのNHK紅白歌合戦のトリ歌いたいという大きな夢を叶えさせてやりたいという情熱を持って作詞した歌であるという。しかも猪俣公章の曲が先にあり、既に詩も歌い手も決まっていたの を、メロディーに惚れて奪い取ったのだそうだ。また 歌が世に出るまで千曲川を見たこともないと言う中での作詞であったという。作 詞は、同じ千曲川を歌った明治の文豪島崎藤村の「千曲川旅情のうた」に触発されてであり、千曲川への憧憬が 詩を作らせたという。まさに情熱を川の流れに託して作詞された歌である。この 歌は、昭和50年に発表されたちまち大ヒット、この年の大晦日、念願のNHK紅 白歌合戦のトリを飾ったのだと言うから驚く。千曲川旅情という信州の情緒ある 川(島崎藤村の叙情)・良いメロディー(猪俣公章の作曲・森岡賢一郎の編 曲)・五木ひろしの歌唱力そして何よりも中村洋子の情熱という五者一体となっ たハーモニーが名曲を生み出したといって良いのではないだろうか。 更に付け加えると、軽井沢に別荘を持ち、郷里の京都より信州が好きだという中村洋子の信州の魅力が背景にある。 因みに奪われた前の歌は「笛吹川夜曲」・作詞:星野哲郎・歌手:川中美幸(当時新人で春日はるみ)であった。両者ともこの歌のヒットを祝福しているという。

この話は、NHKが、平成8年から始め今で続いている「土曜特集:そして歌は誕生した」で、第四集「故郷の唄」「千曲川」で放送された話の要約である。この特集は、戦後から現在までに生まれた名曲の裏ばなし・苦労ばなしを扱ったもので好評を博し第四集までの内容を編集して本になってPHPから刊行された。
以前大阪にお住まいの方から、”「千曲川」は、どのあたりをイメージしたものか、母が好きなので教えて下さい。”というメールを頂いたことがある。 前述の話は当時知らなかったので、残念ながら答えられなかった。この話を知った今、なんと答えたらいいだろうか。 唄の生まれる課程は様々であが、最近現地調査して作詩されるケースは希なのだそうだ。中村洋子さんも”先に千曲川を見ていたら圧倒されてあの詩は書けなかったろう”と述懐しているとのことであるが、イメージを膨らませるにはそうかもしれない。先輩の島崎藤村の場合は詩が先にあって曲を後からつけたという経緯であるが。この話が「千曲川」が、人の心を打つ名曲なのを損なうものではない。自分が気に入った千曲川をイメージすればいいのではないか。私の好きな千曲川は、小諸の懐古園から見下ろした千曲川・飯山付近を満々と水をたたえて流れる千曲川である。
・参考:NHK土曜特集「そして歌は誕生した」番組制作斑編集「そして歌は誕生した・名曲の陰に秘められた物語」
    PHP研究所刊行・99.1.6初版・
・制作:99/01/24

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